「星をかすめる風」は、イ・ジョンミョンの同名小説を原作とした舞台作品。温泉ドラゴンのシライケイタが脚本・演出を手がける本作は、2020年9月に青年劇場とシライの初タッグ作として初演されたが、観客収容率50%の制限下での上演となった。劇中では、27歳の若さで獄死した韓国の国民的詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ)の最後の日々を描く、愛と死の物語が展開する。
チラシの裏には、「3年前、初の緊急事態宣言下でこの作品の執筆をし、宣言が明けた直後に稽古に入りました。ソーシャルディスタンスが叫ばれる中、国の距離を超え、星々の距離を超え、愛する人に届けとばかり、青年劇場の皆さんと総力を結集して作り上げました。今回は、初演時の熱量とスケールを超えていく挑戦です。どうか見届けてください」というシライのコメントが記載された。
特高警察による押収を免れた2冊の詩作ノートに遺された詩が日本語、英語をはじめ複数の言語に翻訳され世界で多くの人々に読まれている。
時代の価値観に惑わされず、普遍の価値を求め、言葉の持つ力を信じて詩を書き続けた尹東柱の詩は、清冽な抒情性とともに常に自由な輝きを失わず、時をこえ国境をこえて異郷の人々の心にも届く。
福岡刑務所獄中での最後の日々を韓国の作家イ・ジョンミョンが描いた小説『星をかすめる風』(鴨良子訳 論創社刊)を原作として、2020年に舞台「星をかすめる風」(シライケイタ脚本・演出)が青年劇場により上演されたが、この度再演される。
これまで数多の上演作品を通して歴史の真の姿や人間の心の深奥に真すぐに対峙してきた青年劇場ならではのこの作品を通して、私たちは否応なしに歴史の真実と尹東柱の詩と生涯に真正面から向き合うことになるだろう。
福岡刑務所での尹東柱獄死の真相は資料も少なく分からないことが多い。
鉄格子の中に閉じ込められた尹東柱と外で彼を見張る看守杉山との間で、一篇の詩が昇華していく。原作はあくまでフィクションであるが、この作品に見られるように武器ではなく文化こそが真の自由への道であり、平和への大きな一歩なのだという力強いメッセージを多くの観客と共感出来ることを願う。
楊原泰子(詩人尹東柱を記念する立教の会)