1幕・2幕の時間のほかも含みます。
2013年、仲代達矢は役者生活60年の節目を迎えた。
1955年に俳優座に入団してから現在に至るまで、約140本の映画、約70本の舞台に出演している。
また、1975年には、亡き妻・宮崎恭子と「無名塾」を設立し、若者の俳優を育成し、数多くの俳優を世に輩出している。
俳優として、人間としての磨きをかけ、品格の高い芸質を備えた役者を育てることが発足当初から二人の強い願いであり、その姿勢は今日もなお、連綿と引き継がれている。
今回の『ロミオとジュリエット』では、仲代は次世代の役者への橋渡し役となり、修道士ロレンスを演じる。
また、ロミオを演じるのは、無名塾ではもちろんのこと、NODA・MAPやTPTなど舞台を中心に活躍している進藤健太郎、ジュリエットは『炎の人』(2010年無名塾)ではシーヌ役に抜擢され、成長著しい松浦唯(27期生新人)が演じる。
演出は、文学座の高瀬久男。大胆にして緻密、緊張感溢れる舞台を次々と生み出し、毎日芸術賞を受賞している。
舞台はイタリア、14世紀のヴェローナー――。
いずれ劣らぬ名家のモンタギュー家とキャピュレット家は、先祖代々犬猿の仲で、血に染まった諍いは絶えることがない。
ところがモンタギュー家の一人息子、ロミオは、ある晩、キャピュレット家の仮面舞踏会に潜り込み、あろうことかキャピュレット家の一人娘、ジュリエットと恋に落ちてしまう。
若い二人は燃え上がる恋心の導くまま、修道士ロレンスのもとで内密に結婚の誓いを交わすが、その直後、不運にも両家の争いに巻き込まれたロミオがキャピュレット夫人の甥、ティボルトを殺してしまうことに…。
殺人の罪によりロミオは追放を言い渡され、絶望するジュリエットに両親は、ヴェローナ大公の親戚、パリスとの結婚を強要する。
進退窮まったジュリエットはロレンス神父に助けを求め、神父はジュリエットがロミオと結ばれるための秘策を授ける。
それは仮死の薬による命懸けの方法だった――。
シェイクスピア作品の多くに「種本」と呼ばれる原作があることは知られていますが、『ロミオとジュリエット』では、民間伝承やギリシャ神話の『ピラマスとシスビー』がその原型とされています。
そこに多くの作家の手が加わり、イタリアの作家、ルイジ・ダ・ポルトの『ジュリエッタ(1530年頃)』で、舞台はヴェローナとなり、仮死の毒薬と行き違いによる二人の死という基本形になりました。
その仏語訳をさらに英訳したアーサー・ブルックの物語詩『ロミウスとジュリエットの悲しい物語』(1562年)や、ウィルアム・ペインターの散文『ロミオとジュリエッタ』(1567年)などがいわゆる「種本」といわれています。
ただし、シェイクスピアはここで彼一流の脚色を加えました。
若い二人の年齢をさらに引き下げて悲劇性を増し、物語を六日間に凝縮して緊迫感を与え、さらに新たな人物造形を加えることなどによって、演劇として魅力的な作品に創り上げたのです。
物語の舞台となった現イタリア周辺の都市国家では、当時、神聖ローマ帝国(皇帝派)と、カトリックの総本山・ローマ教皇派の二派が勢力を争っており、ヴェローナはその分布図の真ん中に位置していました。
モデルとなったモンテッキ家(戯曲ではモンタギュー家)は教皇派、カプレーテ家(同キャピュレット家)は皇帝派に属しており、まさしく犬猿の仲――、この政治的背景が伝承の悲恋物語に加味されたのです。
現在のヴェローナには、物語に因んだジュリエットのバルコニーなどの観光名所があり、サンフランチェスコ教会にはジュリエットの石棺があります。
1937年、この教会のジュリエット宛に、恋に悩む手紙が届き、管理人が好意で返信したことから、今では年間五千通もの手紙が届くように。
現在は、ヴェローナ市民からなる「ジュリエットクラブ」の女性たちが、“ジュリエットの秘書”として返信を書いているそうです。